クイーンズギャンビット 話題のNetflixオリジナルドラマを鑑賞

 私たちはきっと新しいヒロイン像を探している。時代の変化とともに、「女性」というものについて考える時間が多くなっている。ツイッターなどのSNSでは、常に「女性」に関わる論争が交わされていて、私を含め男性たちはいつも自分を問い直さなければならない状況にある。

 映画界ではMee tooを皮切りに、フェミニズムの影響を多く受けた創作が広まりつつある。それは古典的な「シンデレラ」のイメージを刷新するディズニーから、インディペンデントな映画にまで広範囲に影響を与えている。

 映画を作る人、観る人はいつも「女性がどのように描かれているか」を気にして鑑賞するようになった。受動的すぎないか、無意識の搾取に肯定的でないか、性描写が搾取的でないか?など気にするべき点はいくらでもある。

 そんな現代に満を辞して登場したのがこの『クイーンズギャンビット』だった。

 

【あらすじ 】

 少女ハーモンは両親を事故で亡くし、孤児院にて幼少期を過ごす。普段の授業から数学に天才的な能力を誇るハーモンだったが、ある時、地下室でチェス盤に出会う。用務員の男性からルールを教わったハーモンのチェスの腕はみるみる上達し、ついにその才能が花を開く

 

【使い古されたテーマの再構築】

 テーマは「才能と狂気、あるいは才能と孤独」これは映画を観る人ならば誰でもすぐに頭に何本か映画が思い浮かぶ、普遍的テーマのひとつだ。はっきり言って使い古されたテーマなのにどういう訳かこの作品は飛躍的に面白い。少年誌に見るような、いわゆる天才モノにも関わらず格式があって、観るものを恍惚とさせる。

 

【徹底的な映像美】

 この映画は、セリフの応酬によって成る会話劇ではない。むしろ、随所に挟まれる“間”によってリズムを作っている。舞台は1960年代のアメリカだが、ハーモンは対戦相手を探して、世界を飛び回っている。それぞれの場所の1960年代で再現される小道具の美しさに圧倒され、まさに目が離せない作品となっている。最近の映像作品は、例えばスマホを操作しながらでも、耳さえ傾けていれば成立するような作品が増えていないだろうか。この作品にはそうした妥協はない。

 

【主演アニャ・テイラー=ジョイの怪演】

 アニャ・テイラー=ジョイは、主人公の年代に応じて、演技を使い分けている。1996年生まれの彼女が、少女から魅力的な大人の女性に変化していく様は、まるで違和感がない。特に思春期の女の子の、世慣れない感じの演技が素晴らしかった。

 

【見せ場はチェス】

 主人公ハーモンにとって、まさに地下室に差した一筋の光がチェスだった。当然、このドラマの主題はチェスだ。アクション物はアクションが最大の見せ場で、ダンスムービーはダンスが最大の見せ場でなくてはならない。特に第二話のタウンズとのチェスシーンを見て欲しい。ただチェスを指しているだけなのに、ハーモンの仕草・表情・目線の演技だけで、爽やかなラブシーンを演じている。

 

【まとめ】

 『クイーンズギャンビット』は限りなく陰鬱な雰囲気をまとった作品だ。だが、それだからこそ描かれる希望がある。男だらけのチェスの世界を、知性だけで戦っていくニューヒロインの誕生は、誰もが待ちわびていたことだろう。繰り返しになるが、この作品は、映像として素晴らしい。小手先のアイデアのだけではない硬派な映像作りは、まさにチェスを主題とするドラマにふさわしい格式を与えている。